唯一の取締役が死亡した場合の株主総会

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株主総会を招集できるか

唯一の取締役が死亡したということは、会社の業務を決定する人が不在の会社ということになりますので、取り急ぎ株主総会を開催して、後任の取締役を選任、かつその選任された取締役が速やかに登記手続を行うことになります。

そこで、問題となるのは、現時点で業務を決定する人がいないのに株主総会の招集ができるかという点です。

招集権者は誰なのか

旧商法232条1項においては、「総会ヲ招集スルニハ会日ヨリ二週間前ニ各株主ニ対シテ書面ヲ以テ其ノ通知ヲ発スルコトヲ要ス」とあり、株式会社の誰が通知を発するのかの規定が存在しなかったことから、『代表取締役』が招集通知を発するものと解されていました。(最判昭和45・8・8判時607号79頁等)

この変遷によって、株主総会の招集は業務執行ではないから代表取締役でなくとも取締役であれば誰でも株主総会の招集ができるという考え方と、株主総会の招集は業務執行であるから代表取締役でなければできないという考え方が対立しております。

一般的に、定款に招集権者が規定されていることがほとんどですので、定款で招集権者が『代表取締役』なのか『取締役の決定』なのかを確認することが肝要となります。

今回のケースは、死亡により取締役が1名もいなくなってしまうケースですので、上記の検討では解決できません。

株主による招集の請求

会社法第297条において、株主から株主総会を招集するという方法があります。
この方法には、最終的に裁判所の許可を要するという点でハードルが高く、また時間を要してしまいますので、緊急性に欠けてしまいます。業務を執行をする役員の不在期間がいたずらに長くなり、会社にとっては致命的な問題があると言えるでしょう。

あえて招集をしないという方法

逆に招集をしなくとも株主総会を開催できるのであれば、取締役が不在でも可能という理屈になります。
会社法第300条には「株主総会は、株主全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。」とあります。すなわち、株主が株主総会を開催することについて全員が同意しているのであれば、開催が可能ということになります。

この手法は、我々が実務でも提案をさせていただくことが多く、逆にこの方法をとれない場合は難しい解決を強いられます。
もちろん、株主全員が同意しなければなりませんから、所在不明株主が1名でもいる場合は難しく、株主数が多い場合や、後任役員について意見の対立が発生してしまうような株主関係である場合には、全員の同意という形はとれないでしょう。
従いまして、少数の株主で意思形成が容易な会社、同族経営の会社等であれば、この手法は非常に有効な手立てとなります。

難しい解決を強いられる場合

株主全員の同意により招集の省略が難しい場合、難しい解決を強いられます。
方法としては、上記、株主による招集の請求という方法の他、仮取締役を裁判所に選任してもらうという方法もあります。(会社法346条1項~3項)

この選任された仮取締役に株主総会を招集してもらうという手法です。仮取締役はあくまでも臨時な地位ですので、役目を終えると退任します。通常は、中立な弁護士等が選任されることが多いと思われます。

やはり、少なからず費用と時間を要しますが、背に腹は替えられませんので、いずれかの決断をする必要があると言えます。

このようなトラブルを避けるために

このようなトラブルを避けるためにどうすれば未然に防げるかという点ですが、役員は少なくとも2名以上の体制で会社を運営しておくことで今回のようなケースのトラブルは防ぐことができます。

1名役員で会社を経営されている社長様も数多く世の中にいらっしゃいます。そのような場合には、速やかに自分亡き後、株主全員の同意で後任の役員の選任ができればとりあえず問題はありません。一度自社の状況を確認してみて下さい。

株式の相続はどうすれば良いか

さて、唯一の取締役が死亡した場合、その取締役が株式の100%あるいは大多数を保有しているというケースは同族経営などの中小企業ではよく目にします。

例として、死亡した唯一の取締役が100%の株式を保有していたとしましょう。この場合でも、株主全員の同意をもって株主総会の招集手続きの省略をすることで株主総会を開催することができる訳ですが、株主全員の同意といっても、株式には「相続」が発生しています。相続人が1人であれば話は早いのですが、相続人が複数の場合は、この「相続」を対処しなければ、株主全員の同意を取り付けることができないことは容易に想像できると思います。

無論、遺産分割協議が整えば良い

相続人全員の間で株式を相続する人を決める遺産分割協議が整えば、株主名簿の書換が可能となり良いわけですが、通常、遺産分割協議には時間がかかりますので、これを待っていては、会社の運営が停滞してしまいます。

遺産分割協議が整うまで株式は準共有になる

遺産分割が整うまで、相続した株式はどのように扱われるのかという問題があります。
よく勘違いされている方がいますが、100株を保有する方が死亡した場合で相続人が子供4名の場合、相続人は法定相続分に基づいて25株、25株、25株、25株の株式を当然に承継する。これは違います。

この場合、法律上は100株を4名で共有していると考えます。すなわち、1株ずつにつき4分の1の権利があるということになりますので、当然に25株は自分の権利だとは言えない訳で、誰も単独では有効に権利行使をできないということになります。
法律上は、この共有のことを「準共有」と呼んでいます。

共有者による株式の権利行使

会社法106条には、相続等で株式を共有した場合に備えて次のような規定があります。

会社法106条(共有者による権利行使)

株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。

今回の唯一の取締役が死亡した場合、株式会社を代表する者がいませんので、ただし書きの「株式会社が当該権利を行使することに同意」という事象はありえません。権利を行使するためには、共有者が合意によって「権利を行使する者1人」を決めて、会社に通知すれば、招集手続きを省略のうえ、株主総会を開催することも可能と言えるでしょう。

判例では、この共有者の合意については、共有持分の過半数による多数決で決めることができるとされています(持分過半数説)(最判平成9・1・28)。一方で権利行使者の広範な権限を考えると、全員一致を要するという学説もあるようです。

やはり、株主全員の同意はハードルが高い

1人でも所在が不明な株主がいると、株主全員の同意を取り付けることは不可能であり、株主総会の開催が事実上不可能になり、仮取締役の選任申し立てを裁判所にして株主総会を招集するほかないということになります。

これは株主の相続の話になると、株主全員の同意の意思表示ができる人(権利行使者)は誰になるのかという点が問題になり、更に対処すべき問題が重たくなります。

また、相続人に行方不明の人がいるような場合、相続人同士の仲が険悪な場合、およそ全員の同意で招集手続きを省略して株主総会の開催を行うことは実現には程遠いケースもあるでしょう。

やはり、上記のような難しい対応を避けるためにも、取締役が1名という事象はリスク管理の観点からも避けた方が良いと言わざるをえません。2名いれば、他の取締役が事業を引き継いで業務執行できますし、株主総会を招集することもできます。そもそも、後任者を急いで選ぶ必要もありません。

そうは言っても、現時点で役員候補者がいない会社もあるでしょう。そのような場合には、経営者は「遺言」で株式だけでも承継者を決めておけば、共有者の権利行使の合意などの問題はなく、○○さんに株式が当然に相続されるという状況を作り出すことができます。

転ばぬ先の杖として、経営者の皆様は自分が亡き後の株式承継の問題は考えておきましょう。
株式の相続問題、対策はご相談ください。

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この記事を書いた人

山添健志のアバター 山添健志 佐井司法書士法人副所長

立命館大学 法学部卒業後 2013年司法書士登録(大阪司法書士会)

中小企業診断士の資格も保有し経営と企業法務の専門性で様々な企業のサポートをしています。

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