高齢者の遺言:予備的(補充)遺言が重要

高齢者ならではの遺言書作成ポイントがあります

高齢者の遺言作成の相談を受ける時、財産を相続する人、あるいは遺贈を受ける人が、遺言を書く人より先に亡くなった場合のことを想定していないことがあります。遺言を書いてから、遺言が役に立つ時までの間も長期にわたる場合、遺言者の配偶者や兄弟姉妹といった、年齢の近い方へ遺産を残す場合には、必ず、配慮しておくポイントがあります。

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遺言者より先に受益相続人が亡くなったとき、何もしなければ?

母が、「長男Aに自宅不動産を相続させる。」と遺言を書いたにも関わらず、長男Aが先に亡くなってしまったとき、そのまま何もしなければどうなるのでしょうか。
Aの長男Bが相続するとした東京高裁平成18年6月29日判決(判例時報1949号34頁)、そして遺贈の場合は効力を生じないという規定の趣旨から、Aの長男Bは相続しないという正反対の結果となる東京地裁平成21年11月26日判決(判例時報第2066号74頁)を経て、以下の最高裁判決が出ました。

平成23年2月22日  最高裁判所第三小法廷判決によると、

「相続させる」旨の遺言は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから,遺言者が,上記の場合には,推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき「特段の事情」のない限り,その効力を生ずることはないと解するのが相当である。

と、しています。

つまり、長男Aに、その子Bがいても、「特段の事情」がない限り、BはAに代わって自宅不動産を相続することはないということです。
従って、遺言者である母が何もしなければ、あるいは、遺言者母が高齢で、長男Aが死亡した時には認知症などで書き直す能力が無くなっていた場合には、自宅不動産部分についての遺言は無効となり、相続人全員で改めて遺産分割協議をすることになります。

相続登記の場面では、このような遺言を使って長男Aの子であるBに名義を変える登記申請をしても受理されません。
「特段の事情」があったとしても、その主張は登記申請の場面では受け付けられず、裁判において主張する他はないのです。

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この記事を書いた人

佐井惠子のアバター 佐井惠子 佐井司法書士法人 代表

関西大学 法学部卒業後 1981年司法書士登録(大阪司法書士会)

三人に一人が高齢者となる社会を目前にして、個人は、そして法人の99.7%を占める中小企業は、どのように明るい未来を描いていけばいいのでしょうか。社会の大きな変化が、法律の世界においてもパラダイムシフトを生じさせています。
司法書士の役割は、人や法人の幸福な未来作りをサポートすること。
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