成年後見申立の相談

成年後見申立の相談をおうけする時、心がけていることについてお話しします。

制度を利用しないと、当面の困りごとが解決しないことが明白である場合、これを利用しないという選択は考えられませんが、最初に、ご本人のこと、親族のこと、暮らしの状況を聞き取ることが大切だと思っています。

目次

後見人の役割は、当面の課題が解決しても続きます

相続や不動産の売却、銀行預金の解約などの後にも、日本の後見制度では、只今のところ、本人の判断能力が改善しない限り、後見は継続します。(この点について、見直しが議論されています。)親族後見人の中には、自身も年齢を重ねていく中で、だんだんと負担となってくるが、子どもと交代しても、子どもにとっても負担となることなので、出来る間は頑張りますとおっしゃる方もいらっしゃいます。

負担感

後見人就任当初は、銀行口座を後見人口座に変更したり、役所への届出など、日中に動くことが沢山あります。支払い等は、口座引落にするなどしていけば、その後は比較的落ち着いてきます。

しかしながら、こんどは、当初とは違った負担感が出てくるという話を聞きます。それは、お金の出入りを記録して帳面につけるという事務の負担であったり、毎年、裁判所に報告書を出す事務負担もあれば、財産を預かるという責任感から来る負担感や、事務について裁判所から間違いを指摘されないかという、プレッシャーもあるでしょう。さらに、本人の生活の場が、施設か、自宅か、独居か同居かでも違ってきます。

ご本人にとっては、何が一番好ましいのでしょうか

常に、このことを念頭に置きます。
目の前のご相談者のお話から、良好な関係にある親族の協力を得られるご本人については、親族が後見人となって暮らしを支えてくれることを前提に、親族にとっても、ご自身の暮らしが保たれ、慣れない業務で負荷がかかりすぎないように、また、安心して行えるよう相談先の確保も考えながら、申立の方向を考えていくことが、結局、ご本人にとっても良いことなのではないかと考えています。

本人だけでなく親族の状況からもベストな体制を考える

親族が後見人になろうとするとき、後見人候補者として申立することになりますが、裁判所がそのまま選任してくれるかどうかは分かりません。親族が仕事をしているかどうか、他に助けてくれる人がいるかどうか、時間が自由に使える仕事かどうか、休日だけで対応できそうか、書面仕事や家計管理が負担でないか等、本人のために後見人の仕事ができる状況かを判断する上で、親族自身のことを聞き取ることを大切にしています。

その上で、本人の暮らしぶりなどを踏まえて、親族が単独で後見人としてやっていけるのか、相談相手として専門職監督人の存在が有効なのか、専門職の後見人と親族の後見人を複数選任されることを望むのか、親族は親族として関わるが、あくまでも専門職に後見人は任せるのかを相談することになります。

専門家としての見通しをお伝えする

親族を候補者とする申立をしていても、必ず選任されるとは限りません。候補者は選ばれずに、裁判所の判断で専門職から後見人が選任されたり、あるいは親族後見人の選任と併せて後見監督人の選任がなされたり、後見制度支援信託の利用を検討実施する前提として、親族後見人に加えて専門職後見人が選任されたりする場合があります。申立相談の段階で、それぞれの説明をすると同時に、専門家としての見通しをお伝えすることからスタートします。

候補者についての事情説明書で一番力を入れるところ

候補者を立てただけで終わってしまう申立では、どういう結果となるかは裁判所任せとなります。見通しをたてた上で、着地したいところにボールを落とすために、「後見業務を行う上での方針」について、親族後見人候補者と、財産管理や身上監護の方法について、しっかりと話し合って目に浮かぶように具体的に考えていく作業を行います。これを、申立書の一部となる「候補者についての事情説明書」に反映させれば、その内容は充実してきます。

通常、候補者の来歴など正確に書くことに力が入ります。もちろん、それも大切ですが、「後見業務を行う上での方針」は、一般論で済まさないことがポイントになるのではないでしょうか。後見業務を行う上で親族の協力が得られることであったり、有価証券は全て売却し、預金にするといったことであったり、積極的に「後見制度支援信託」を利用することや、信用金庫や信用組合、銀行で始まった「後見制度支援預金」といったサービスを利用することも視野に入れて、日常に必要なお金と大きなお金の保管方法を変えるなど、一緒に考え、申立書に反映させることで、今の、家庭裁判所での選任状況を踏まえたうえで、親族候補者の思いができるだけ叶えられるようサポートします。

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この記事を書いた人

佐井惠子のアバター 佐井惠子 佐井司法書士法人 代表

関西大学 法学部卒業後 1981年司法書士登録(大阪司法書士会)

三人に一人が高齢者となる社会を目前にして、個人は、そして法人の99.7%を占める中小企業は、どのように明るい未来を描いていけばいいのでしょうか。社会の大きな変化が、法律の世界においてもパラダイムシフトを生じさせています。
司法書士の役割は、人や法人の幸福な未来作りをサポートすること。
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